雨が上がって、ホームのコンクリートはもう乾き始めていた。
そういえばこの駅は、ボクの実家の最寄り駅の一つだった。
高校通学のときに毎日使っていた駅だ。
勝手知ったるマイプラットホーム。
OH! My Platform。
雨上がりの少し冷たい湿気たっぷりの空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
こんなことはなんにも予定していなかったことだったのに、なんかうれしかった。
近くのベンチに腰掛け、ザックからシュウマイ弁当を出し、紐といた。
おもいかけずちょっとでかけた行楽地で弁当をひろげた気分になった。
外でこうして食うシュウマイ弁当も旨い。
辛子も醤油もつけなかった。
ビールがほしかったけど我慢した。
眼の前で何本も上り下りの通過列車が通っていった。
その合間に各停が止まったが、別段気にならぬ。
車両の帰宅途中の人たちもこれといって奇異な表情でボクを見ていない。
見てないはずだ。
我関せず。
駅の向こうには須賀線や東海道線、踊り子号などが通過していく。
そういえば、小さい頃母親にひとりでいっちゃだめだよときつく言われていたけど、よくここまで電車や汽車を見に来ていたな。先頭列車に丸い標識で背景が青で「つばめ」って白でかいてある列車なんかにであったときはもうウットリだったな。いつか必ずあれに乗るんだっておもった。
この駅の脇にはこんなに主要な幹線が頻繁に走っているというのに、踏切があって
開かずの踏切だったんだよな。それが跨線橋みたいになって、駅舎にはエレベーターがついて。
そうそう、この駅のすぐ前の通りは国道1号線で、正月は箱根の駅伝の花の2区なんだよ。今じゃ信じられないけど、選手のすぐ後ろに走っている車から檄を飛ばすんじゃなくて、鞭打つみたいにガラの悪い人が拡声器で怒鳴り散らしていたな、街宣車みたいだったよ。
いろんなことが次々によみがえってきた。
うん、なんか腹が一杯になった。
胸も気持ちもいっぱいになった。
実家によって母に会ってこようかともおもったが、なんか歩くのもかったるい。
そのまま、我が家へ直帰した。
その日の夕食にシュウマイがでた。
内心、ひどく驚いたがそんなことはおくびにも出さない。
それくらいの修行は積んでいる。
しかし、からだは正直でいつものように箸がすすまない。
おとうさん、食べないなら僕たちでたべちゃうよぉーと小学生の息子達はうれしそうだ。
こっくりとうなずくと、あっとうまにセイロは空っぽになった。
実は今日の昼の弁当、シュウマイ弁当だったんだ。
4ツ食った。
そんなこと言えるわけがない。
それくらいの分別は持っている。
午前中はあたふたと忙しく仕事を中途半端に片付け、1時間以上かけて大会に出席し
会場の座席についていたのは約1時間、どんな議論をしていたのかもよくおもいだせない。
往復の電車をのぞいた時間はシュウマイ弁当を食っていたことになる。
4箱食った。
4箱とも旨かった。
そういう一日だった。
幸せな一日だったような気がした。
(おわり)