2016年7月19日火曜日

母の悪い癖 その3

 ボクは高校生。
父の趣味は写真であった。
写真を撮り現像してパネルにしたり、写真機そのものも好きであった。
京都・奈良へ一泊旅行でよく行った。

 父の健康状態を心配して、母は父を一人で行かせることはなく
兄弟の誰かを必ず、お供にさせていた。
学校があっても、休ませる。

 よく行ったので、誰かをガイドできるくらいに詳しくなっていた。
何度か行くうちに、父はボクに財布を持たせ
今で言う、ツアーコンダクターのようなことをさせるようになっていた。
無論、そうさせるまでには、いろいろなことを父に仕込まれたのだが。

 父が自分ですることは
往復の新幹線の切符を買うくらいのことだけだったようにおもう。
ぎりぎりまで自分の仕事のスケジュールの都合だったのだろう。

 その時の京都旅行は東京駅で父と待ち合わせた。
母とボクの切符は事前に母が受け取っていた。
家を出るとき、案の定なかなか出かける素振りを見せない母が心配だった。
せかせても、あー、とか うー、と言うだけである。
玄関の鍵をしめたのはよいが、
これではピッタシ乗り遅れてしまう。

 東海道線に乗り、東京駅に着いた。
新幹線ホームまで急げばまだ間に合う。
母も急ぎ足になっていた。
ふっと、またあの時の光景が一瞬よぎった。
しかしである、
プラットホームに上がったときには、新幹線は走りだしたところだった。
ホームに父の姿はない。

 母に
「次の新幹線は何時だい」と聞かれたものの、
またかっ とイラッとするよりも、体から力の抜けるほうが大きかった。

京都ではいつもきまった宿に泊まっていた。
そのホテルのレストランで、
母は好物のハンバーグをうまそうに食べていた。



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