2019年2月23日土曜日

「雪の階」(ゆきのきざはし)を読んだ

 冒頭の数行を読み始めたら、何かしらの不安を感じ、それがなぜなのかとは気づかぬまま
読み進めれば、だんだんとどうしてこうもこの不安感と何かしらの不愉快感がねとりまつわりつくのかを肌に感じれば、だからといって、途中でこれ以上活字を拾い読むことをやめるとはつゆおもわず、そのまま情景を流し回すカメラの動きのようにゆがみながら目の前のものが波打ちよせるのであったが、今度はひとつのところでとまるかのように留まると少しづつではあったがそのうねりの中に飛び込むように打ちよるのであり、まもなくそれらはひとつになって粉々に砕け散るかと見まがえれば、空の上方から激しい勢いで閃きながらそこに飛び込んでくるものがあり、はたとその方に頭を向けてみるとキラキラとまばゆい光が細かい音をたてながら羽衣に塩粒があたっているかのような微かな塩気や音や光が微細に振動する空気が息苦しくもあり快くもあり、本人にもいったい何に身をまかせようとしているのか、わからぬものにゆだねてしまう心地よさもあるのだった。


 肺活量のある作家である。
話の筋はおもしろい。最後まで飽きさせぬ。

 文章は上記のごとく、ひといきに書き、句読点で息継ぎができるというようなわけではなく、
どこかで読んだような感覚にすぐにおもいあたったのは、三島由紀夫の文章の調子であったが、
彼のようなどこかに狂気を秘めたようなものではなく、ヌメヌメとまとわりつき、それがくねくねと粘着的にからだに徐々に締め付けてくるかとおもうと、それらはさらにしつこく、今度は脳内のしなぷすのひとつひとつをしらみつぶしに食いつぶしてゆくかのような恐ろしい感覚が押し寄せてくる一方、はじめは耐え難く感じていたこの違和感と不快感も慣れてくるに従って、次を次をと求め、どうか途中でこの長い湿潤なぬめりと輝きをもった生き物のような文線をどうか切らずにこのまま巻き付け締め付けてくれと望むようになってきているのであり、それらはもう湿って煙って嫌な匂いを発している希望と化していた。

 ここのところ、今まで読んだことのない作家の作品を読むようにしているのだが、
どの人のものを読んでも、おもしろい。
つまらないものに当たることのほうがはるかに少ない。
力のある作家がたくさんいるのだな。

この小説、星5つです。


0 件のコメント:

コメントを投稿