ボクはそのとき中学生だったとおもう。
パチンコ屋に入る父に、ボクは外で待ってるからといったら
父はエッと意外な顔をして、
もくもく立ち込める煙草の煙と大音響の軍艦マーチの中へ消えていった。
マーチのリズムに歩調を合わせてしまっている、父がおかしかった。
お客さんが出入りするたびにタバコの強烈な刺激臭と耳につんざく音を
あびながら、ガラスドアーの外の脇につったっていた。
そのパチンコ屋の斜向かいに、今川焼きを店頭で焼いているお店があり
ボクは手先を器用に動かしながら今川焼きを焼いているお兄さんの作業を
遠目にボンヤリとながめながら待っていた。
突然、ガラスドアーが開き、煙と音の中から
おいっ と父の声が聞こえた。
酒はまだ飲んでないだろうに、顔が紅潮している。
お前もやれっ
入ってきて一緒にやれっ と父が叫んでいる。
父の強引なその声に気圧されて、しかたなくボクは入った。
耳が痛く煙にむせ、すぐに頭がガンガンしてきた。
父の台の前に、玉が山盛りになった箱が何箱もある。
台の棚の上に数箱、足元にはもっと沢山の箱があった。
あっ これは大当たりしたんだ と
中学生のボクにでもすぐにわかった。
パチンコのことはすでに、2軒隣の親しいおばさんからよくきいていた。
おばさんはパチプロだった。
買い物に出掛けて、最初にパチンコ屋で稼ぎ
そのお金で買い物をするという、うわさであったが
ボクはそのおばさんからそのことを直接きいたことがある。
おばさんは眉毛をビシっとさせて
プロじゃあないけど夕飯の買い物はここで稼いでからじゃないとダメね。
◯◯ちゃん(ボクの名前)にも、教えてあげるから
今度一緒に来なさい。
ボクはまだ子どもだからと断ったのだが、
何いってんの、早くからやらないとダメに決まっているじゃないの と
すぐにでも、手を引いて連れて行かれそうな勢いであった。
そんなおばさんも買い物帰りに
緑色のネギの葉だけが買い物カゴから見えていたことがあった。
ボクが目をあわさないように笑いをこらえて、
通りすぎようするとわざわざボクの方によってきた。
鼻眼鏡の目玉をギロッと上目遣いにし
こんな日もあるのよ
と、残念そうな低い調子の声で買い物カゴの中を見せてくれた。
ネギだけだとおもっていたボクは驚いた。
商店街では有名ドコロの肉屋のロゴがはいった
牛肉だと思われる緑色の線が入った包装紙にくるまれた大きな物が
カゴの底に横たわっていた。
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