2016年8月30日火曜日

父が帰ってくるとき  その4

 パン屋さんにいった。
2斤が1本になった食パンを2本買った。
そんなに買ってどうするのかとおもった。

 今歩いてきた商店街のアーケードを戻り、パチンコ屋の前を通り交差点の信号を渡った。
肉屋へ向かった。
この肉屋さんは地元の有名店で、値段も良いが味も良い。
緑色のストライプの包装紙をわざわざ見せびらかすように、
商店街を歩くおばさんがいるくらいだ。

 そのお店お手製で自慢のハムをスライスしてもらい、半斤位の量を買った。
お正月やお客さんが来たときしか、食べることのできない高級ハムをこんなに買って
ドキドキしていた。
買ったからには、家でボクも食べることになるのだろうと想像するだけで
口の中でジワッとくるものが抑えられなかった。

 家に帰るには、急坂を登らなくてはならないのだが
父もボクも足取りは軽かった。
両手に持ったパンとハムの袋のひもが指にくいこんでいた。

 帰宅してすぐ、父はサンドイッチを作るぞと張り切っていた。
父が口に入るものを作ったのは、このときの1回っきりであった。
4斤ぶんの食パンにバターを塗り、ハムをはさむ作業が延々と続いた。

 途中、ハムが余りそうになったので2枚ずつはさむようにした。
それでもハムは余った。
ボクはあとでこのハムを楽しめるのが嬉しかった。

 どこかにでかけていた、母が帰宅した。
うず高く積まれたサンドイッチタワーを見て、ボクの方に
一瞬きつい視線を放った。
が、すぐに そうかい、そうかい、今日の夕飯はサンドイッチかい と
頭を上下に振りながら、無理に自分を納得させている様子であった。

 家族で頑張って食べても、残った。
ボクもたくさん食べたが、途中で飽きてきたので、和芥子をといてペーストにし
ハムにぬって食べ続けた。
日持ちがしないので心配したが、母は近所に配っていた。

 翌日、日曜日、父が出かけてから、
お父ちゃんは、1杯のお茶を飲むのに、やかんいっぱいに沸かす人だからねぇ
と、お茶をすすりながらひとりごとのように言っていた。
そのお湯を沸かしてくれたことも、一度だけだったらしい。


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