2016年11月28日月曜日

井上陽水さんとスキー

 一緒にスキーをしたわけではありません。
若い頃、よくスキーにいった。
どこのゲレンデだったかは忘れた。

 スキー場には陽水のBGMが流れていた。
何度も何度もずっと同じ曲が繰り返される。
「都会では自殺する 若者が・・・」
この曲のこの部分は滑降するときの曲としては、リズムがあわない。
リフトで上っていくときに、しんみりハァハァしながら縮こまって聴いていた。
晴天で白銀に映える青空のときは、この曲がさめざめと胸に染み込んだ。
曇天で食肉牛のように吊るされたまま天然の冷蔵室のなかを上るときは、
「これから、バラされるんだ。
ステーキや薄切りのしゃぶしゃぶなんかの肉にされるのならイイけど、小間切れはイヤだな」
うつむき雪面をじっとみ続けた。

 次の日にも同じ曲が繰り返えし流れ続けていた。
「行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ
君の町に行かなくちゃ・・・
・・・君に家に行かなくちゃ・・・」
 
 リフトで頂上につき、いよいよ滑り出す。
大きな高速パラレルで斜面を一気に2,3回転で滑るつもりが、
ちょうどこの部分のフレーズになってしまうと、
リズムがひどくズレる。

 後ろからせかされるように、
慌てる理由などまったくないのに、
気づくと、こまかなせっかちそのもののウェーデルンを刻んでいる。
滑り降りて、今しがたの滑りの軌跡を眺める。
こんなはずじゃなかったのにと落ち込む。

 再びリフトにのる。
また食肉牛になって頂上まで行く。
今度こそと固く決心して高速パラレルを始める。
「イイぞこの感じだ。頬を切る冷たい風が快感だ。」
と、滑りが急にウェーデルンになりつつある。
ハッと気づくと、
「行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ・・・」
陽水が叫んでいる。
滑り終わりは、小さなウェーデルンを刻んでいた。
この曲の魔力はスゴイ。

 スキーはやめて、ゲレンデ脇のロッジで
この曲を肴に、ビールをあおった。


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