2016年10月7日金曜日

携帯文字変換中毒 その4

 すぐに、友人に聞いてほしくて、電話した。
友人は気がついていないようだった。
「あれ、喋り方なおったの?、大変だったね」
やがて、電話口の友人は
「少し飲んでる? 気分良さそうじゃん」

 俺はどうしてだろうと、アプリを疑った。
友人と世間話をしながら、アプリをインストールする前後のことをおもいだしていた。
インプットした音声dataが原因かもしれないと思い至った。
そういえば、あのdata、挨拶はともかく、他の半分以上は酔っ払ってたな。
まっいいか。
それにしても、恐ろしく再現性の高いアプリだと俺は感心した。
誓いを思い出していた。

 携帯文字変換会話で、当然のことながら、彼は完璧なブラインド入力である。
お客様は、彼が目の前で携帯に入力する芸術的な指さばきに見とれてしまい、
商談に集中できないこともあった。
そのようなとき、彼はスーツの内側で見えないように入力し会話するのだった。
場合によっては、ポケットの中で操作することもあった。
お客様の目を見ながら、携帯が間に入っていることなど意識せずに商談をすすめていた。
お客様の側からすると、身体のハンディーにもかかわらず、以前以上に仕事をしている彼のことを
仕事ができる営業マンとして一層信頼を寄せ、販路を開拓していた。

 部下数名と営業に出ることも多くなったが、
商談の席上、お客様からこの営業チームの素晴らしさを、逆に褒められたりもした。

 社内では評判としてではなく、実績として、認められていた。
どことなく酔っているようなイントネーションが最初は気に障ったが、
そのうちそれが彼の個性となり、遠くからでもその独特な声が聞こえると
彼がいることがわかり、強みとなっていった。
数年後、彼に転勤の話がきた。

 その転勤は、彼が希望したものだった。
役員に直々にお願いする機会を得ることができたのは幸運としか言いようがない。
破格の扱いだと言ってよい。
彼は遠慮せずにK2Pアプリで、海外支店をできたら米国ブランチをと、希望を伝えた。

 彼の期待を上回る、転勤辞令だった。
デトロイト本社in USA 。
かってのような勢いは街になくなってしまっているが、
全米の営業を担っていることに変わりはない。

(続く)


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