どこの診療科にするか迷った。
総合診療科というのが最近あるということで、ここにした。
ドクターに、症状と悩みを話した。
医者は笑って言った。
「これは病気じゃありません。癖ですよ、クセ。」
本人は深刻真剣に悩み落ち込んでいるというのに、
この医者の言い草は何だ!
腹が立った。
「学生のときみたいに、何か気に入ったテキストをゆっくり音読したらどうでしょう。
しばらく繰り返せばそのクセもなおるとおもいますよ」
これはまだ試していなかったので、なるほどとおもったが、
俺のこの症状をクセの一言で片付けるドクターにムカついた。
結局、専門の診療科は紹介してもらえなかった。
しかし、手応えはあった。
ドクターとの会話で、
携帯文字変換会話ではドクター自身も患者の説明を聴くのに難儀したとみえて
机の前にあったもう1台のノートパソコンを差し出してくれたのだった。
彼がこのパソコンに言いたいことを入力すると、ドクターの前のコンピュータ画面に
彼のノートパソコンからの入力文字があらわれるウインドウがあるのだ。
会話するのと同じくらいの速さで彼は入力できるので、意思の疎通に時間差は感じなかった。
そうか、こんな方法があったか。
医者に行ったかいはあったと彼はおもった。
何台か持っているモバイルPCのうちの1台は、画面をクルッと相手に向けることができる。
お客様には喉の病気で声が出ませんと伝えておけば良い。
うん、これならこのまま仕事を続けられる。
ホッとしたのもつかの間、
ちょっと前に見たテレビのニュースを思い出していた。
彼は子供の頃から、空を見たり星空を眺めるのが好きだった。
サソリ座が西に沈むとき、それを射るように東の空からあらわれるオリオン座などの
星座を見るたびに、古代ギリシャ神話の本を読むようになっていた。
高校生の頃にはすでに、星座にあらわれるギリシャ神話の話は諳(そら)んじてしまっていた。
大学入試に失敗して宅浪をしているときに、
プラネタリウムで宇宙や星座などの説明したり、機械の操作をする資格をとった。
これは一発で合格した。
大学ではこの資格が役に立ち、アルバイトでずいぶんと稼がしてもらった。
テレビのそのニュースはケンタウルス座の方向に、地球型の惑星が発見されたという内容だった。
その席に、ホーキング博士がコメンテータとして出ていたのだ。
Dr.ホーキングは彼専用の車椅子に座し、合成音声の機械で会話する。
彼の場合は、前もって入力していたメーッセージを流すという形だが、
伝いたい内容はしっかりと理解することができる。
Dr.ホーキングの勇姿をみて、彼はポンと自分の膝をたたいた。
そばに誰かいれば、そうだ、そうだよ、これだよと
相手の両肩に手を当てて揺すっていただろう。
そのことに気づくと同時に携帯を手にとり、あるアプリを検索しだしていた。
(続く)
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