2016年10月4日火曜日

携帯文字変換中毒 その2

医者に行った。
どこの診療科にするか迷った。
総合診療科というのが最近あるということで、ここにした。

 ドクターに、症状と悩みを話した。
医者は笑って言った。
「これは病気じゃありません。癖ですよ、クセ。」
本人は深刻真剣に悩み落ち込んでいるというのに、
この医者の言い草は何だ!
腹が立った。
「学生のときみたいに、何か気に入ったテキストをゆっくり音読したらどうでしょう。
しばらく繰り返せばそのクセもなおるとおもいますよ」
これはまだ試していなかったので、なるほどとおもったが、
俺のこの症状をクセの一言で片付けるドクターにムカついた。
結局、専門の診療科は紹介してもらえなかった。

 しかし、手応えはあった。
ドクターとの会話で、
携帯文字変換会話ではドクター自身も患者の説明を聴くのに難儀したとみえて
机の前にあったもう1台のノートパソコンを差し出してくれたのだった。
彼がこのパソコンに言いたいことを入力すると、ドクターの前のコンピュータ画面に
彼のノートパソコンからの入力文字があらわれるウインドウがあるのだ。
会話するのと同じくらいの速さで彼は入力できるので、意思の疎通に時間差は感じなかった。

 そうか、こんな方法があったか。
医者に行ったかいはあったと彼はおもった。
何台か持っているモバイルPCのうちの1台は、画面をクルッと相手に向けることができる。
お客様には喉の病気で声が出ませんと伝えておけば良い。
うん、これならこのまま仕事を続けられる。

 ホッとしたのもつかの間、
ちょっと前に見たテレビのニュースを思い出していた。

 彼は子供の頃から、空を見たり星空を眺めるのが好きだった。
サソリ座が西に沈むとき、それを射るように東の空からあらわれるオリオン座などの
星座を見るたびに、古代ギリシャ神話の本を読むようになっていた。
高校生の頃にはすでに、星座にあらわれるギリシャ神話の話は諳(そら)んじてしまっていた。
大学入試に失敗して宅浪をしているときに、
プラネタリウムで宇宙や星座などの説明したり、機械の操作をする資格をとった。
これは一発で合格した。
大学ではこの資格が役に立ち、アルバイトでずいぶんと稼がしてもらった。

 テレビのそのニュースはケンタウルス座の方向に、地球型の惑星が発見されたという内容だった。
その席に、ホーキング博士がコメンテータとして出ていたのだ。
Dr.ホーキングは彼専用の車椅子に座し、合成音声の機械で会話する。
彼の場合は、前もって入力していたメーッセージを流すという形だが、
伝いたい内容はしっかりと理解することができる。

 Dr.ホーキングの勇姿をみて、彼はポンと自分の膝をたたいた。
そばに誰かいれば、そうだ、そうだよ、これだよと
相手の両肩に手を当てて揺すっていただろう。
そのことに気づくと同時に携帯を手にとり、あるアプリを検索しだしていた。

(続く)


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