短時間でこれだけの量のメール、ずっとメールを書き続けていたに違いない。
長さもさることなかがら、その内容のあふれでる人への慈愛に彼は揺さぶられていた。
現在はアプリや機械の区別なく、一つのものとして開発研究し製造販売しているという。
メールの最後は、
あなたこそわたしの欲している人材だ、一緒に働いてはくれまいか、
と結ばれていた。
会社を退社する直前にこのメールに気づき、斜め読みなどできなかった。
外はすでにすっかり暗くなり、遠くには離着陸するジェット機の灯りが尾を引いていた。
誰にも相談しなかった。
先週椅子に座りながら眺めていたジェット機に乗り、西海岸に飛び立っていた。
ジェット機の窓からは、先日まで働いていた高層ビル群の中にある会社が見えた。
北海道、名古屋を拠点に日本のあちこちに住んだ。
K2Pアプリのおかげで、なんとか仕事を続け、米国本社にまで来ることができた。
西日に向かって上昇し続ける機上から、もうマッチ箱のように見える車を見ながら
熱くこみ上げてくるものを待ったが、なかった。
この仕事が好きだ。
営業は天職だとおもっている。
どんなにすばらしいものを作ったとしても、
売り込まなければその製品はいつまでたっても、目の前にある。
これが制作した人間にとっては辛い。
こんな時代になっても、便利で美しいものを作れば、それだけで売れるとおもっている人々が
まだまだたくさんいる。
良いものを作れば売れる。
これはウソだ。
世間に知らしめる行為がなければ売れない。
商いとはそういうものだ。
彼は沢山の商談をまとめながら、営業職であることに誇りがあった。
片時もそれを失うことはなかった。
営業をしながら沢山の人に出会えた。
商談がまとまり笑顔のお客様を見るのが喜びだった。
人を幸せにし喜ばすことができるのなら、今の仕事にこだわることはない。
結局自分が今までやってきたことは、このことだったのだと改めておもった。
夕焼けで真っ赤になった西の地平線が今日と明日の区切りのように見えていた。
(続く)
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