彼は、こちらの勤務になるまでの経緯を手短に説明し、
またこんな風な会話しかできなくなってしまったことも、理解を得ようと努めた。
K2Pアプリとの出会いにより現在の自分があること、
年収の半分近くを数年に渡って開発者にドネイトしたことなども話題にした。
営業は人なりである。
直接営業と関係のない話を続けていた彼は、
向かいに座っているお客様が段々大きくなってくるように感じだしていた。
筋骨隆々とした体躯が、彼の前に近づいていた。
お客様の目には、商談の核心とは異なる炎がメラメラとしていた。
説明を続ける彼の言葉をさえぎって、お客様が尻をもぞもぞしながら
居ても立ってもいられない様子で話し始めた途端、立ち上がり、彼の隣に座った。
彼はやや顔を紅潮させ早口に話し始めた。
わたしは開発者の彼を知っています。親しくはありませんが友人です。
どうして思い出したかというと、
彼がいつか多額のドネイトされたお金で起業したよと、話してくれたことがあったからです。
あなたがなくては生きていけないそのK2Pアプリの話も知っています。
アランは、あっ彼の名前です、あのアプリの欠点も話してくれてました。
キーからの入力方法はどうしても制限されてしまうんです。
どんなに速く打ち込んだとしても、です。
あなたのように超人的な入力ができる人なんかいる訳がありませんから、
アランがあなたのその芸術的な指さばきをみたら、腰を抜かすどこではないでしょう。
K2Pアプリがこうして眼の前にいるあなたのように、実際に役に立っていることを
アランが知ったらどんなに喜ぶことか、三日三晩のパーティーじゃおさまりませんよ。
彼は、機械やアプリは人の役に立つこと、幸せにすること、これしか考えてない男ですからね。
アランにあなたのこと連絡しても構いませんよね。
彼は確か今、千人を超える研究員や従業員を雇って研究所を運営しているはずです。
その後も数時間、商談はせず、その話題で語り合った。
K2Pアプリの開発者アランの現住所とメールアドレスも教えてもらった。
営業本部長の彼は結局、商談をすすめることはできずにいた。
自分の席に戻った彼は、いつもの椅子なのに座り心地がおかしく、何度も座り直していた。
そして、すぐに先程教えてもらったアランへメールした。
彼は多額なドネイトをしたことにより、感謝の気持ちはそれで充分だとおもい、
その後は日々の忙しさにかまけ、K2Pアプリダウンローサイトを訪れることはしていなかったのだ。
アランからその日に返信がきた。
(続く)
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