2016年10月22日土曜日

西瓜のお使い その2

 母に、残った半分の西瓜を渡した。
母に聞かれる前に、自分から事の成り行きを説明した。
母は、間抜けだねぇとボクのことを叱った。
バカだねぇのほうがボクはよかった。
間抜けと言われ、普段それほど母から叱られてもあまりこたえないボクは凹んだ。
バカは心の網を通りすぎるが、マヌケはネトつきからみつく。
マヌケはイヤだ。

 今度は母と一緒に、裏の八百屋へ行った。
途中、道端にさっきボクが食ったばかりの食い散らかした西瓜が
まだ食べようと思えば食えそうな赤いところがたくさんついてころがっていた。
母が独り言のように何か言っている・・・
道端で落とした西瓜を立ち食いして、こんなに食い散らかしたままにして、
恥ずかしい、穴があったら入りたいよ、マヌケなことをしてくれたもんだ。
マ ヌ ケ 、なんて心に突き刺さる言葉なんだ。
マヌケはイヤだ。

 八百屋の亭主と母はでかい声で話していた。
この子ったら、お使いで頼んだ西瓜をね、途中でころんで西瓜を割っちゃってさ
半分道端で立ち食いしちゃったんだって。ハハハハハ。
間抜けな息子だよホントに。
でもさ、お母さん。お使いなんてえらいじゃないか、なにね、こんなでかい西瓜持てるかいって
確かめたんだけどさ、大丈夫って言いはるもんだからね、心配だったんだよ。
でも、こんなにでかい西瓜の半分をよく食ったなぁ、たいしたもんだ。
ボクの腹の方を見て、八百屋の親父さんはニコニコご機嫌だ。

 それで、今度はわたしが持って帰るから、もう一つくださいな。
あいよ、なら今度は店の一番でかくて甘いのがいいや。
コレにしときな、まけとくよ。
重たいよ、気をつけてな。

 綱で編んだ手提げに入った西瓜を持ち上げた母の顔は、一瞬歪んだ。
家までは遠くない。
これくらいなら大丈夫と思ったに違いない。
しかし、それほどの距離でもないのに母は途中で3度休んだ。
3度めの休憩で、西瓜の下ろし方が悪かったのだろう、
ピシッと弾けるような音がしたおもったら、
割れ目が南半球から赤道を超えて北半球に達していた。
真っ赤なマグマがのぞいているのが見えた。
これで人類は終わった。

 母はボクに目もくれず、マグマ滴る地球を持ち上げ歩き始めた。
砂利道に赤いマグマの跡がポタポタと残った。
ボクはその跡を、靴底で砂利をよせて埋めながら後をついていった。

 家につくなり、母は包丁でその地球をすごい勢いで真っ二つにした。
地割れして不規則な部分の割れたところを、ボクに食えとくれた。
「お母ちゃん、今度の西瓜のほうが甘くておいしいよ。」
語気鋭く母は「そうかいっ」と包丁を握ったままだった。
背中を見せたまま、
「さっさと、さっきの食い散らかした西瓜を片付けに行っておいで、ゴミ袋を忘れんじゃないよ。」
西瓜の汁が飛んできそうな勢いだった。

 ランニングシャツの上からぷっくり膨れていた腹は、もう目立っていなかった。
西瓜を運んできた、藁で編んだ綱の網にマグマが染みて、赤くなっていた。


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