2018年3月22日木曜日

「黒船前夜」渡辺京二 を読んだ

 ジジイのわたしにはフランス人の姪がいる。
彼女が子どもの頃、寝るときにお話をよくせがまれた。
フランス語でこんなふうに言う。
「トントンコーサク、(ヒ)イストワール シルトゥプレ」

 この「(ヒ)イストワール」は英語の history である。
日本語で歴史と訳されるが、
こんなに小さな子どもが日常用語の中でも毎晩使うような単語なのだ。
日本のこどもたちが寝る前にお話をおねだりするとき。
「なんかお話して」の「お話」が(ヒ)イストワールになる。

 其の頃のわたしの持ちネタは、宇宙探検物語だった。
シュウシュウと蒸気の煙をたてながら、発射間近の宇宙船に乗るところから始まる。
見送りの人たちと抱擁を交わし、遠くの人たちには手をおおきく振りながら
宇宙船に乗り込むところまでが、たいてい第一夜である。

 第二夜はいよいよロケットに点火し、ドッドッドッドッゴーーッとすさまじ轟音とともに
ロケットが発射し上昇してゆく場面となる。
そのころの宇宙船はまだ初期のものだったので宇宙船内の振動もすごい。
其の振動のすごさを伝えるのもなかなか話のテクニックとしては難しい。

 とまぁ、こんなふうにして話はあちこちの星を探検したり、ワープできる宇宙船になったり、
ブラックホールに吸い込まれたり、パラレルワールドに迷い込んで別の宇宙に迷い込んだりと
いくらでも話は続く。

 自分でも語りに酔いしれ、
ハッとして姪っ子の方を見ると、目はぱっちりランランと光り輝いているではないか。
次から次へと話をねだる目になっている。
まずい。
これでは寝ない。

 其の姪は今ではもう四十に近い歳になっている。
フランスに住まっているが、そのときの話があまりに面白く何から何まで事細かなことまで
今でも覚えているという。

 姪は結婚し赤ちゃんが産まれた。
彼女の息子が小さかったころ、「マモン イストワール シルトゥプレ」と、
やはりおねだりされて、宇宙探検物語が定番だったらしい。
そしてやはり息子は其の話をしだすと、眠りにつくどころか
パッチリランランに目が輝いていたという。

 「黒船前夜」と関係ない話になってしまった。
でも関係なくはない。

 渡辺京二さん語るところの「歴史」はこの「お話」なのだ。
「歴史」という語が「科学」になっていないところが、次へ次へと読ませる原動力となっている。
囲炉裏の廻りに車座になり、其の人の語りに耳を傾ける。
目はキラキラ、パッチリ見開きランランと輝き、話に引き込まれ、次を次をとおねだりする。

「第十章 ゴローヴニンの幽囚」リコルドと高田屋嘉兵衛の厚誼に心打たれた。



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