2018年3月11日日曜日

司馬「江漢西遊日記」の旅 その5

 江漢が婆婆を見て、涙する場面がある。

 長崎は生月島の天明9年正月2日の出来事。
海辺は小屋を掛け大変な賑わいである。

「・・・我等と又右衛門家内、娘、床ぎを二キャク程ならべ、先さじきのかたちなり。見物す。
あとは皆土間にて、田夫漁夫、老若男女数百人、おし合へし合大さわぎなり。中に七十位の
老婆見物せんとて、押れて難渋するを見て感じける。此小嶋に産れ、一ッ生涯都会の地を
知らず、誠に悲き事なりと、思へば涙が浮みける。十六七の女、ほうに紅を付る。」



 浜の舟の上で見物している者もいる。
右隅で右上を見上げて丁寧に表情を描き込んでいるのが婆婆だろう。

 江漢は旅の途中出会った老婆・婆婆をおもしろおかしくあたたく優しく記し、そして描く。
江漢このとき42歳である。

0 件のコメント:

コメントを投稿