2016年9月2日金曜日

父が帰ってくるとき  その6

 今ではそんなことはきっとしないと思うが、ボクは銭湯の湯船で
脱糞してしまったことがある。
それも女風呂で・・・

 湯船につかっているうちに、ウトウトしてきて気持ちが緩んだボクは
おしりの方もゆるんだと見えて、スルッと見事な一本のウンチが
お湯にプカッと浮いてしまったのである。
自分では気づかなかった。
女湯はおお騒ぎになった。
そばにいたおばさんがどじょうすくいのように、桶ですくってくれた。

 すくえるような形態の糞でよかったとホッとしている。
これがまとまりのない状態のものであったら、想像するだに恐ろしい。
湯船の色は変色し、その後は入浴不可となるだろう。
風呂屋でボヤ騒ぎを起こしただけでなく、脱糞で湯を汚して営業不可に、
もう一家で引っ越しするしかない。

 風呂場には、湯船が2つあって、浅いほうはおしりをつけて座ってつかり、
深いのは、中腰でつかるか、湯船の中で2段になっているところに腰かけるようにしてはいる。
ボクはやっとその深い方に入ることを許されて、
そうすることが大人に少し近づいたような気がしていた。
その深い方で、両手を縁にかけ、おしりを湯船の真ん中に向けた格好がいけなかった。
今風に言えば、洋式トイレに座って、もう少し腰を浮き立たせたような立ち居とでもいえようか。

 浅い方に入っていれば、おしりは湯船の底に押さえられるから
脱糞は湯船の中では防げたようにおもう。
ここは詳細な分析が必要だろうが、なんせもう何十年も前のことである。
尻も忘れてしまっている。

 そんな出来事があり、ボクの評判はガタ落ちであった。
母はボクに、
もうお前は男風呂に入れと
とうとう、女湯は出禁になってしまった。

 しかし、しばらくは女風呂に母と一緒に相変わらず入り、
気が向くと、脱衣場の境の両方に開閉する板戸をパタパタさせながら
行ったり来たりしていた。


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