湯に入ると父はきまって
「銭湯はイイなぁー、手足を伸ばせて広くてイイなぁー」
と言うのを、何べん聞いたことだろう。
頭を洗ってもらうときは、
あぐらをかいた父の右側の股のところに頭をおき、脚は外側に投げ出していた。
そのままボクが右を向いてしまうと、
父のものがボクの真正面にきてしまうので、真上をずっと向いていた。
頭を洗ってもらっていた頃だから、小学校前のことだろう。
ボクは父の背中をゴシゴシ洗った。
もう少し右だ、もっと上だ と言われながら
ボクは立ち上がって両手で洗った。
暑くなると父は銭湯へは下駄に浴衣で、下はふんどし一丁だった。
そんな父の着こなしがボクは好きだった。
風呂からあがると、ふんどしだけで帰った。
わずか1,2分の近さとはいえ、
恥ずかしいボクは父に浴衣を着てくれと懇願したが
父は無視して、番台を後にした。
父が家についた頃を見計らい、浴衣を持って
ボクは風呂屋を出た。
いつもはそうしていたのだが、
ある時、父が出るより前に、ボクは浴衣をもって先に家に急いだ。
すぐに家の窓から風呂屋の出入り口の方を見た。
父が出てきた。
ふんどし一丁だ。
当たり前だ、ふんどし以外はボクが持ってきてしまっている。
父は何食わぬ顔をして、平然と歩いている。
ふんどしの白さが夕方の光にまぶしい。
裸の王様より格好いいと、ボクは家の下に近づく父を見下ろしていた。
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