満月の晩だった。
母は夏みかんを一房ごと丁寧にむき、それに白砂糖をタップリかけ、お皿に山盛りにしたものを冷たくして、月見をしながら食べたことがあった。夏の満月の晩にそんなことをよくやった。
二人で食べてしまったので、腹がふくれた。
夏みかんの甘酸っぱいゲップをしながら、窓枠に脚を掛け伸ばし、両の手を枕にただただ月を見続けた。
おいしい夏みかんだったねぇ・・・
母はブツブツ言いながら、寝息を立て始めていた。
後年、ボクは知るのだが、これって「八朔の雪」じゃないか。
母がしたことはマンマで趣も何もなかったかもしれないけど、こんな風流どこで知ったのだろう。
およしよ、母親をバカにするもんじゃないよ、
再生しなくても、後頭部の奥で母の声がひびく。
別の日のその晩も満月だった。
ボクははっと目覚めると、母と月見をしていてウトウトしてしまったのだろう。
一人になっていた。
脇にいた母がいなくなってしまった。
急に怖くなり、窓から大きな声で叫んでいた。
おか〜〜〜ぁ〜ちゃ〜〜〜〜〜〜ぁん〜。
どうしてこんなにあわてたのか。
母は一度だけ子ども3人にむかって、
おまえたちでだけで生きておいきっ、
と威勢よく啖呵をきって、家出をしたことがあった。
なにか母の言いつけを姉か兄か、どちらかかが守らなかったのだ。
鉄製のドアーがガチャーンと閉められてすぐに、兄姉の視線はボクに向けられていた。
えっ、なんでボクなの、
キズツケルヨウナコトハナニモシテイマセン
4つの目玉はしかし、こう語っていた。
オマエノヤクメダ、
スエッコハ、イチバンカワイイノダ
スグハハヲツレモドセ
(つづく)
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