2019年7月19日金曜日

テープレコーダー その31


 なんか電報屋さんが持ってきてくれた文面がこんなんだったな。
お調子者で騙されやすく素直なボクは命令に従って、母の出かけそうなところの見当をつけ
商店街へと坂を下った。しばらく探しまわったが、歩き疲れてきた頃、商店街のずっと奥の隅に
魚屋さんの六さんとおしゃべりしている母を発見した。

なんだよ、おかあちゃんったら、いつもとおんなじに買い物してるじゃんか。

 しかし、母があんなふうに家出まがいのことをしたことはボクにとってはショックだったようだ。
その後、こんな夢を何度か続けて見た。
 母が銭湯からこざっぱりして家に帰る途中、何故か空からヘリコプターがやって来て母をさらってしまうのだった。ボクはその一部始終を見ていて、ヘリコプターに引き上げられてゆく母を、ヘリの爆音より大きい声で、おか〜〜〜ぁ〜ちゃ〜〜〜〜〜〜ぁん〜と叫び、窓を大きく開け放ち何度も叫んでいた。その自分の声でハッとして目覚めてしまっていた。

 ちょうどあの頃の満月の晩だったのだろう。
天にある満月に向かってボクは吠えてしまっていたのだとおもう。
夢ではヘリコプターに向かってだったけど。


 ハッとして目を開けると、境内の縁側だった。
おっと、ウトウトしてしまったようだ、もう宿へ帰ろう。
ホテルのロビーでは誰もいないのにカラーテレビがつけっぱなしになっていて、
王がホームランを打ったところが流れていた。


(つづく)


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