2019年6月18日火曜日

テープレコーダー その1

 父が道楽でオープンリールのテープレコーダーを買ってきたのは、ボクが小学校2年生くらいのときだったとおもう。

 母はこんなものを買ってきてと見向きもしなかった。
喜んだのは兄とボクである。

 兄は何か機械仕掛けのものがあると、どんな新品でも分解してからまた組み立てることが大好きで得意だった。しかし、このテープレコーダーは手強いと見たか、今までのようなことはしなかった。

 何をしたか。
テープレコーダーは録音した音声を早回ししたりすると声の高さが変わって早口に音声が出力される。またオープンリールなので無理やり回転を変化させておかしな抑揚で出力させることもできる。
今風にいうと、LPレコードを手でいじくって調子を変化させるのと同じことだ。

 兄はこんなセリフをボクに喋らせ録音した。
「父ちゃんは金を運ぶ機械だ」
これを10回近く連続して吹き込んだ。

 早回しにして再生すると、甲高い声で恐ろしく早口で、10回のセンテンスがすぐに終わる。
おかしくって何度も兄にせがんた。
ケラケラ、笑い転げた。

 今度は回っているオープンリールの部分に手をかけ遅くして再生させた。
とぉーーーーーちーーゃーーんわぁ〜〜〜かーねーーぇーーを〜〜〜はーこーぶーぅ〜〜〜
きーーーかーぁーいーーーぃーだぁ〜〜〜
腹が痛くなるほど、涙が出るほど笑い転げた。畳をバンバンたたいた。

こっちのほうがおもしろいね、おにいちゃん。

ごきげんだった。
テープレコーダーから出力される音をまねて、ボクは実際に声をだし、語尾を伸ばす「〜〜〜」のところで、なぜかアカンベーをして目を白黒させてふざけまくった。


(つづく)


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