はじめはちゃぶ台の上に牛乳瓶をのせストローをさして飲む。こんなの簡単だ。
次に膝立ちになり、ストローを継ぎ足して長くなるにしたがい、気をつけの格好で首だけカクンと下げストローをくわえる。ボクの身長で足らなくなると、瓶をちゃぶ台から下ろし、畳の上に直接置き、それでも足らなくなると、ちゃぶ台の上にたち、最後は椅子の上にたって頑張った。
ボクは何事も突き詰めてまっしぐらに挑戦することが大好きなのだ。
その日の分を失敗したり不本意な結果に終わったときは、
翌朝は失敗するもんか絶対うまくやってやる、と寝るときに固く誓ったものだった。
翌朝が待ち遠しかった。
兄や姉はボクが脇目も振らず、顔を真赤にしてストローをつなげ咳き込んだり口をすぼめて
吸い込んだりする様がおかしかったのだろう。盛んにボクをはやしたて、ストローをつなぎ足してボクにわたした。
飽きずにそんなバカな罰当たりなことを何度も何度もやっていた。
牛乳を普通に飲むことはなくなっていた頃、母に見つかってしまった。
よりによって、今までで最高の長さに挑戦しているときでボクはもう有頂天だった。
牛乳瓶は畳の上にあり、姉が倒れないように腹ばいになって両手で支え、兄は椅子の上に立ち上がりボクを両手で抱きかかえているところだった。
がんばれ、もっとおもいっきり、あとすこしだ、ほらどうした、がんばれ、おまえならできる、
兄と姉も興奮してボクをはげましていた。
あのときの母の表情は今でもはっきりおもいだせる。
見てはいけないモノを見てしまい、一度は顔をそむけたようにおもう。
(つづく)
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