2019年6月19日水曜日

テープレコーダー その2


 当時、というかボクが生まれてからずっと、父とは月に数度会えればよいほうだった。
お家の事情と言うやつだ。
難しい年頃にさしかかっていた兄が日頃感じていたことを脳天気な弟に代弁させ、父が衝動買してきた機械でその言葉をおかしく出力させ、暗い歪んだ気持ちをマイナスに発散させていたのだろう。
しかし、弟のボクはノリにのってしまい手がつけられなくなってしまっていた。
こいつ、ほんとにバカだな、もうしらねぇ。

 そんなバカっ面をしているところに、母がお使いから帰ってきた。
なんかこんな場面がちょっと前にあったなと、頭の隅をかすったが、
アカンベーをして目を白目にむいて「〜〜〜」状態のボクは母の声はきこえるが姿は見えるわけがない。

 そのときは、テープレコーダーは止まっており、ただボク一人が
とぉーーーーーちーーゃーーんわぁ〜〜〜、と真っ赤な顔でうなっているところだった。

 母はストロー事件のときより怒っていた。
おとぉちゃんがなんだってぇ〜!!!カネをはこぶぅ〜、なんていっておいでだい!!!
えぇっ、なんていってんだいっ!!!

 バカっ面のまま、ボクはかたまった。
兄は素知らぬ顔でテープレコーダーを片付けている。

 ボクはさっと、両手を後ろに回しお灸のあとに重ねた。
またお灸かと覚悟したが、母はしなかった。

お父ちゃんが働いてくれているから、お前たちは食べることができているんじゃないか。
どうしてそんなことがわからないんだ。
たしかに、お父ちゃんが汗水働いているところをお前はみたことはないだろう。
でも、はたらいているからこうしてお金を家にいれてくれているんじゃないか。
それくらいのことが、それくらいのことが、どうしてわからないんだい・・・。

 お灸のかわりは母のちょっと涙声の説諭だった。
まだ、耳に残っている間延びした低音のセリフが母の嘆きと重なっていた。


(つづく)


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