ボクの手のしびれ感はますますひどくなってきていた。
それに、なんか痛い。
兄は救急箱を持ってきていた。
いったいいつの間に持ってきたんだろう。
我が家は貧乏であることは確かだったが、救急箱の中身はジュウジツしていた。
母は少し前までバリバリの看護婦だったのだ。
それも戦争のときは外地である中国のある都市の病院に勤務していたんだ。
空爆や戦闘機の銃撃にもあっている。
百戦錬磨の戦う看護婦だったのだ。
兄は手早くガーゼやらなんやらでボクの人差し指の手当をしていた。
あれ、なんでボクの手をふいてんの、おにいちゃんの手が真赤なのに・・・。
必死の形相である。兄の両手はボクの血で真っ赤になってしまっていた。
包帯でぐるぐる巻きに強くまかれた右手を上に上げたままにしてろと怒鳴っていた。
バカッ、そっちは左手だろ、箸を持つ方の手だっ、こっちを上げるんだ。
指先がドックンドックンしている。
ボクは兄が茶色い瓶の液体でテープレコーダーまわりを拭いて掃除をしているのをながめていた。
アルコールの匂いがしていた。
お兄ちゃん、なんか疲れてきたよ〜、
バカッ、下ろすな、上げるんだ、上げたままにしてろ。
(つづく)
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